ZEH(ゼッチ)という「ゼロエネルギー住宅」が今注目されています。
家を建てることを検討中の人で、ZEHの導入のメリット・デメリットが気になっている方も多いのではないでしょうか。
ZEH(ゼッチ)とは、環境に優しく、安心で快適な生活が送れるよう、国民の住居環境を政府が支援しながら、エネルギー問題を改善するプロジェクトです。
日本政府は、地球温暖化対策の一環として、消費エネルギーを削減することを、企業だけでなく、一般住宅においても促進することを始めました。
それを実現させるために、住居環境に細かな基準を定め、ZEHの基準をクリアした住宅を支援する補助金制度を打ち出しました。
日本政府が設定したZEHの基準に適合した住宅とは、はたしてどんな家なのでしょうか。
ZEH(ゼッチ)の概要とZEH住宅の特徴
ZEHという言葉は、まだまだ世間に浸透しておらず、ZEHとは何か、どのような住宅のことを言うのかについて、まだ知らない人も多いのが現状です。
ZEHとは?
ZEH(ゼッチ)はNet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語で、簡単に言えば、太陽光発電などを利用した省エネ住宅です。
断熱性が高く換気の良い住宅で、空調・給湯・照明のエネルギー消費量を減らし、太陽光発電などを利用して、年間の実質電気代ゼロを目指す住宅です。
住まいの消費エネルギーを減らす仕組みを各所に取り入れ、太陽光発電と蓄電のシステムを管理し、消費よりも発電量が上回ることを目標とします。
政府の目標では、2020年までに注文住宅の半数以上をZEHにし、2030年までに新築の戸建てや集合住宅の半数でZEHを実現することを目指します。
ZEH住宅の特徴
ZEHでは、冬は熱を逃さない断熱、夏は熱をさえぎる遮熱効果を高める設備を導入し、快適な室内の温度を保って、住宅の消費エネルギーを削減します。
また、省エネ給湯機やエアコンを設備し、電気の使用料と発電量が分かるHEMS(ヘムス:ホームエネルギーマネジメントシステム)を導入します。
CO2を排出しない太陽光発電で、地球環境にやさしく、災害時にも自力で電力を確保できるのがZEH住宅の特徴です。
日本政府はZEH住宅を増やすために補助金を出して、ZEHの基準を満たす住宅の建設を支援しています。
ZEHが基準とする住宅設備の条件
ZEHを満たす住宅の条件として、熱を制御する「遮熱・断熱性」、エネルギー消費を減らす「省エネ性」、自家発電する「創エネ性」の基準があります。
断熱性・遮熱性能に優れた住宅
冬は室内の熱を外に逃さない断熱性があり、夏は日光や外気の熱をさえぎる遮熱性に優れた住宅で、快適な室温を保つことを目指します。
UA値
「UA値」とは、住宅の熱の逃しやすさを表す数値で、この値が小さいほど断熱性能が高いとされ、「外皮平均熱貫流率」とも呼ばれています。
外皮とは、家の外壁・屋根・床・開口部などの外周部分で、UA値は、外気と室内の温度差で高温から低温へどれだけ熱を還流するかを示す数値です。
家の外周部分で、それぞれの外皮の面積にそれぞれの熱貫流率を掛け合わせ、総外皮面積で割ったものがUA値となります。
断熱材を使用した屋根・天井・外壁に囲まれた家は、UA値が低くなりますが、窓などの開口部の面積が広い家は、UA値が高くなります。
暖房に使用による電気・ガスの消費を減らすため、ZEHの基準では、UA値が0.4〜0.6[W/㎡K]以下を基準としています。
ηAC値
ηAC値とは、住宅に降り注ぐ直射日光が、熱となって室内に侵入する熱量を、外皮面積で割った数値です。
屋根・外壁・窓などの箇所のηAC値の平均値が小さいほど、遮熱性が高くなり、冷房の効率が良くなります。
ηAC値で、夏の日射熱の住宅への侵入をどれだけ防ぐかを数値で表し、住宅の性能を判断します。
ZEHの定めたηAC値の基準は、2.8以下をクリアすることとされています。
省エネ性能に優れた住宅
ZEHでは、住宅の消費エネルギーを従来よりも20%以上削減することが求められています。
特に、エネルギー消費量に大きく関係する「空調」「給湯」「照明」「換気」で、ZEHの基準を満たした機器を使用する必要があります。
空調機
空調機(エアコン)の省エネ性能は「APF値」で表され、APFが6以上の空調機が、効率の良いエアコンの目安とされています。
ZEHの住宅では、全部屋にエアコンを設置する規定はなく、基準をクリアしたエアコンが、一軒に1~2台あれば良いとされています。
エアコンは暖房・冷房に使用でき、床下空調で家の中の空間を循環させることも推奨されています。
給湯器
ZEHでは、二酸化炭素の排出量が少なく、エネルギー効率のよい給湯器の設置を提唱しています。
照明器具
ZEHでは、LED照明を使用する必要があり、使用できるLED照明の種類が決められており、それ以外の照明器具を使うことはできません。
換気設備
室内の換気は、シックハウス対策に必要不可欠で、ZEHでは、効率の良い換気設備の設置が義務付けられています。
熱交換機能の良い換気扇であれば、機種の限定はなく、一般に普及している換気扇でも使用可能です。
創エネ設備の整った住宅
創エネとは、エネルギーを創り出すことで、その代表的なものに太陽光発電があります。
ZEHでは、まず、使用するエネルギー消費量を減らし、次に、屋根に設置した太陽光発電でエネルギーを補い、余った電気は家庭用燃料電池に蓄電します。
そして、太陽光発電で作られた電気を、効率よく管理するシステムが導入されます。
余った電気を売電したり、災害時の電力にも役立てたりできるのが、ZEH住宅の大きな強みです。
ZEHが省エネ住宅とみなす基準とは?
住宅のエネルギー消費量を計算して、ZEHが基準とする住宅の条件に合っているかが判断されます。
Nearly ZEHとは?
都心部の住宅は狭小地で太陽光発電のため、屋根の面積や日照時間を確保しにくいので、基準数値を緩和して、「Nearly ZEH」が設定されています。
ZEHは、100%以上の「一次消費エネルギー削減」を基準にしているのに対し、Nearly ZEHでは75%以上を基準にしています。
一次消費エネルギーとは?
「一次エネルギー」とは、石油、石炭、天然ガスなどの、自然由来のエネルギーのことを言います。
日常生活で使われるエネルギーは「二次エネルギー」と呼ばれ、発電所や送電所で加工され、各家庭に送られています。
ZEHが、一次消費エネルギーを基準とした理由は、加工によって二次エネルギーの単位が異なるため、一次エネルギーに変換して基準を適用するためです。
一次エネルギー消費量の単位は、J(ジュール)で表され、MJ(メガジュール)やGJ(ギガジュール)が使われます。
ZEHが定めるエネルギー消費量の基準値とは
住宅のエネルギー消費量は、GJ(ギガジュール)で表され、冷暖房・給湯・照明・換気・その他の5項目を計算します。
その他とは、冷蔵庫やテレビなどの家電の電力消費量ですが、ZEH基準の算定値では、その他を除く4項目のエネルギー消費量が合算されます。
合計値がZEHの定める基準値をクリアすれば、省エネ基準に合った住宅とみなされます。
計算は建築研究所のホームページにある、「住宅住戸のエネルギー性能の判定プログラム」を用いて行います。
詳しくは、『建築物のエネルギー消費性能に関する技術情報』を参照してください。
ZEHを導入するメリットとは?
ZEHの基準をクリアしている住宅が、省エネで環境に優しいことはわかりましたが、実際に住宅を建てるには、どんなメリットがあるのでしょうか。
快適性が向上する
夏は遮熱性に優れて涼しく、冬は断熱性能が高くて暖かいため、エアコンをあまり使わなくても快適な生活が遅れます。
ZEHは、夏の遮熱性能や冬の断熱性能が高いため、空調機をあまり使わなくても快適な生活が送れます。
住宅で使用する光熱費が減ることに加え、太陽光発電などで、自家発電した電力で補うことができ、発電量に余剰が出れば売電もできます。
ヒートショックを防ぎ健康をサポート
近年では、真夏日が続く季節には、1000人以上の人が熱中症で救急搬送され、室内で脱水症になり命を落とす人も少なくありません。
ヒートショックとは、脱水症の他に、急な気温差により血圧が変動し、真冬にお風呂に入る前後や、暖かい部屋から寒いところに出た時に起こる症状です。
ZEHの住宅では、居間から寝室までなど家の中での温度差が小さくなり、居室間を移動した際の体温調整や血圧変動が少なくなります。
猛暑や冬場の温度管理に優れ、高齢者や若年層の人の健康を守ることにとても有効です。
災害時に自力で発電できる
ZEHの住宅は、太陽光発電でエネルギーを作り、住宅で使う電力を補うほか、余った電力を蓄電池に蓄えることができます。
太陽光があればいればいつでも発電でき、余剰分を蓄えることができるため、災害時に送電が停止された場合も、自力で電力を補うことができます。
日中だけでなく日が沈んだ後も、太陽光で発電した電気を使うことができるため、電気代が節約できます。
エリアによって、夜間の電気代が高くなる地域でも、日中に発電・蓄電した電力が利用できるため、夜間の電力消費と日中の発電効果を管理できます。
住宅の価値が上がる
2016年から、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)が施行され、住宅をエネルギー性能で評価する基準ができました。
BELSとは、住宅の省エネへの取り組みを評価するもので、5段階で評価しています。
ZEHの基準に適合した住宅は、星4〜5つの評価を得ることができ資産価値がアップするので、将来的に売却を考えた際に高く売れる可能性があります。
ZEHの補助金
経済産業省、国土交通省、環境省が、ZEHの基準に適合した住宅の建設に対して補助金を支給しています。
平成30年度では、一次エネルギー消費・外皮断熱性・創エネ量などの条件をクリアした戸建住宅、集合住宅に対して、補助金枠を設定しています。
戸建住宅で70万円〜140万円程度が受給されていますので、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの推進に向けた取り組み」で確認しましょう。
ZEH補助制度の申請の仕方
補助金制作については、今後の国会の予算審議の結果に左右されますが、募集時期は例年5月、7月、8月と、三次募集まで行われています。
ZEH補助金申請手続きの内容
・申請書の作成(専門家による外皮の熱貫流率の資料が必要)
・環境共生イニシアチブ(SII)に、建築前に申請
・工事完成後に実績報告をSIIに提出、完了検査を受け補助金を受給
・エネルギー使用量、発電量、売電量を、2年間(半年ごと)報告
ZEHの補助金に関する不明点はプロに相談しましょう。
ZEHを導入するデメリットとは?
ZEHは省エネで環境に優しく、家族の健康を守る理想的な住宅ですが、実際に新築住宅に導入するには、多くのハードルがあります。
建設費が高い
ZEHの条件を満たすには、高い基準をクリアした設備が必要で、エアコンや照明の他、屋根や外壁建材、太陽光パネル、蓄電池に費用がかかります。
ZEH住宅と認定されるためには、省エネ設備や太陽光発電システムなどの導入コストがかかり、補助金が出ても初期費用がかかります。
建築確認申請手続とは別に、補助金申請の書類を揃えるのに知識と手間がかかり、「外皮熱貫流率」の計算を専門家に依頼する費用が発生します。
容易に変更ができない
ZEHに基づいた住宅であることを申請した際には、申請後に基準を下回るような変更ができません。
実際に建築に入ったときに、間取りやインテリアが気になって、窓の位置や照明器具などを変えたくなっても、変更することはできません。
蓄電された電力の価格が安定しない
ソーラパネルによる太陽光発電は、天候によって発電量が左右され、梅雨や冬季は日射量が少なくなり、売電価格も変動的です。
余った電気を電力会社が買い取ってくれる制度がありますが、売電価格は、行政と電力会社の取り決めに左右されます。
屋根の形が制限される可能性がある
憧れのマイホームを建てるのに、さまざまな建築様式のアイディアが浮かんできますが、ZEHの住宅では屋根に太陽光パネルを設置しなければなりません。
太陽光発電のため、一定の日射量や安全性を確保し、屋根の形状や向きに配慮が必要で、屋根の形状を自由に選ぶことはできません。
ZEH住宅でも光熱費がかかる
ZEHの掲げる目標は、「年間の一次消費エネルギー量を概ねゼロ以下にする住宅」にすることです。
その他の家電の消費エネルギーは、ZEHが規定する「空調・給湯・照明・換気」の一次消費エネルギー基準に含まれていません。
電化製品やテレビ・パソコンを含む電力消費量が多い家では、光熱費を実質ゼロに抑えるには、かなりのハードルがあります。
補助金制度が複雑
ZEHに適合した住宅には国から補助金が支給されますが、支給項目や金額が、政府の方針によって変化してゆきます。
施工する建築会社・工務店などでも、ZEH申請を前提に、高度な設備を勧められることもありますが、条件や基準が変わることも考慮し、慎重な検討が必要です。
まとめ
ZEHとは「ゼロエネルギー住宅」を意味し、ZEH住宅の建設に補助金が出るという大きなメリットがあります。
しかし、補助金制度を利用するには、政府の定める基準をクリアしている必要があり、そのために、ZEHの住宅建設に大きな初期費用がかかります。
また、太陽光発電が天候により安定しないこと、余った電気の電力会社の買取価格も変動的で、売電価格が下がることなどの不安要素があります。
一方、多発する自然災害を考えると、地球環境にやさしい住宅を作ることや、災害時にも電力を自給できることは、大きなメリットです。
マイホームを建てることを検討している人は、費用対効果を考えて、ZEHの導入を検討するのも良いかもしれません。