軒下のない家は「軒ゼロ住宅」や「キューブ型住宅」とも呼ばれ、スマートでデザイン性のある外観で、都心の狭小地でもよく採用されています。
しかし、軒がないと雨漏りのリスクが高くなるため、箱型の家のはやめておいた方がいいと聞いて、不安に思う人も多いのではないでしょうか。せっかく理想のオシャレな家を建てても、すぐに雨漏りしてしまっては、がっかりですね。
この記事では、軒下がない家のメリット・デメリットや雨漏りなどのリスクの回避方法について紹介します。
軒下のない家「キューブ型住宅」「軒ゼロ住宅」とは?
軒下のない家は、「キューブ型住宅」「箱(BOX)型住宅」「軒ゼロ住宅」と呼ばれ、一般に、軒の長さが25cm以下の家を言います。
「軒」とは、日本従来の家屋にみられる、外壁から突き出している屋根の部分です。
突き出す軒部分が無いか、25cm未満の短かい軒の住宅は、「キューブ型住宅」と呼ばれています。
一方、「軒」のある住宅構造は、四季の移り変わりの激しい日本の風土で、建物の保護の面で大きな役割を果たしています。
夏は軒で強い日差しをさえぎり、大雨の時は雨水が外壁にかかるのを防ぎ、冬は熱の放出を減らして部屋を暖かく保ちます。
しかし、近年では、空調機が普及してきたことで、外気を気にせず一年中快適な生活がおくれるようになり、軒を重視しない傾向にあります。
軒下のない家「キューブ型住宅」「軒ゼロ住宅」のメリット
近年、軒のないモダンな「キューブ型住宅」が増えてきており、新興住宅地を歩いても、軒のない家がずらりと並んでいます。
まず、軒下のない家のメリットについて見てみましょう。
デザインがシンプル&スタイリッシュ
家に軒をつけると、従来の日本家屋のイメージが強く独創性がなくなり、おしゃれで斬新なデザインにしにくいことがあります。
いっぽう、軒のない家では、BOX型のシンプル&モダンな外観になり、さらに、陸屋根にすれば屋上にテラスが設置できます。
また、片流れ屋根の場合は、ソーラーパネルを設置し、エコで近代的で住まいにすることができます。
外観もシンプルでヨーロッパ風のおしゃれな家になり、ライフスタイルを楽しみ、合理的な暮らしを求める若い世代に人気があります。
敷地いっぱいに家を建てられる
軒のない家が普及した背景に、都市への人口の集中と地価の上昇があります。
都心部の狭小地では、軒をつけないことで、狭い土地でも敷地いっぱいに家を建てることができ、居住面積をより広く確保できます。
地価の高い利便の良い所に家を建てたい場合は、「箱型住宅」はより安い価格で、限られた面積を最大限に生かすことができます。
北側斜線制限の影響をあまり受けない
自治体の都市計画法では、土地の使い道が定められており、「用途地域」というものが指定されています。
各自治体は、土地を工業地域・商業地域・住宅地域などに区分し、有効利用を促すために細かな建築基準を定めています。
第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域では、住居環境保全や日照権確保のために「北側斜線制限」を設定することがあります。
「北側斜線制限」のある地域では、「軒」を付けると制限にかかってしまい、家が建てられる面積が減少します。「北側斜線制限」にかからないよう、敷地いっぱいまで家を建てるには、「軒ゼロ住宅」の方が有利になります。
建築費が安くなる場合がある
軒をつけると、屋根の裏側に軒下天井を作らなければならず、建材や手間がかかるため、建築費が高くなります。
一般的に「軒ゼロ住宅」「キューブ型」の家の方が、建築費が安くなりやすいと言われています。そのため、価格面で若い世代には軒のない家が人気です。
外壁塗装の際も、軒下天井の塗装費用が別途かかりるほか、軒天井が老朽化して穴が開くと、屋根裏にハクビシンなどの害獣が侵入することにもなります。
採光を取り入れやすい
住宅が密集した地域では、昼間でも電気をつけなければならない家も多いのが現状です。
軒下がない家は、軒のない分より多くの太陽光を室内に取り入れることができ、自然光で部屋を明るく照らすことができます。
窓からより多くの光を取り入れ、室内を明るくすることで、電気代の削減にもつながります。
耐震性・断熱性・気密性に有利
軒下がない家は、一般的に1階と2階の面積が同じ、「総二階」の箱型の住宅となります。
箱型の家は建築構造がシンプルで、「柱」や「梁」の繋ぎ目が少なく、耐震性に優れています。
「総二階の家」は、複雑な形状の家よりも地震に強いほかに、気密性が高く、断熱性にも優れています。
凸凹がない分外壁面積が減るので、外気に影響を受けることが減り、光熱費の面でもコストパフォーマンスが良くなります。
軒下がない家「キューブ型住宅」「軒ゼロ住宅」のデメリット
軒には本来、住宅を守る大切な役割がありますが、その軒を設置しない場合、どのようなデメリットがあるのでしょうか。
それでは、軒下がない家のデメリットについて見てみましょう。
外壁塗装やシーリングが劣化しやすい
軒は外壁を直射日光から守り、紫外線にあたる面積を減らして、外壁塗装の劣化を軽減する役割を果たします。
木材・鉄骨・コンクリートなどの建材は、表面を塗装塗膜で覆うことで、内側に水が侵入するのを防ぎ、建材を劣化から守ります。塗料は一般に樹脂からできており、紫外線で樹脂が分解されることで塗膜が失われて、建材が露出することで劣化のスピードが早まります。
従来の外壁はモルタル塗りが主流でしたが、近年はサイディングボードの家が増え、ボードのつなぎ目をシーリング材で埋めて雨水の侵入を防いでいます。
工場で生産されるサイディング建材の耐久性はアップしていますが、シーリング材は樹脂でできているため、紫外線による劣化から免れません。
また、シーリングの劣化でサイディングの隙間から水が入り、壁内部の木材を腐らせたり、染み込んだ水分が膨張して外壁の剥離(はくり)が起きたりします。以上の理由で軒がある家より外壁やシーリングが劣化しやすいと言われています。
雨漏りしやすくランニングコストが高くなる
外壁に直射日光が当たる面積が広いほど、外壁塗装が劣化して、雨漏りのリスクが高まります。西洋の乾燥した気候とは異なり、日本は高温多湿であるため、「軒がないのは傘をささずに雨の中で立っている」のと同じとまで言われています。
外壁の内側には「浸湿防水シート」が貼られて「2次防水」されていますが、「浸湿防水シート」にも耐用年数があります。メーカー保証が20年のもありますが、建売住宅の多くが10年保証であるため、外壁内部に雨水が侵入しないよう対策は必須です。
一般に、建物の寿命を維持するには、定期的な外壁塗装とシーリングの補填・打ち替えが重要ですが、軒のない家の場合は塗装サイクルが短くなります。
付属設備が劣化しやすい
軒のある家は、1日の太陽の動きの中で、日陰になる部分が広くなります。しかし、軒下がない家では、直射日光にさらされる時間が長くなります。例えば、外付けの室外機や給湯器などの劣化が早くなると言われています。
付属設備の寿命が短くなるために、長期的にみて、ランニングコストが高くなると言えるでしょう。
強い日差しが差し込み生活しにくい
軒のある家は、夏は軒で強い日差しをさえぎり、冬は熱の放射を減らして室温調整をするほか、強い西日が差し込むのを防ぐ効果もあります。
軒下がない箱型の家では、西日をさえぎるため、窓のサイズに合わせて、ブラインドやスクリーンを発注したりしなければなりません。また、外壁や窓が外気に露出する面積が広いほど外気の影響を受けやすく、空調機を使用する時間が長くなり、冷暖房費が高くなります。
急な夕立で窓が開いている場合は、雨が家の中に吹き込みやすく、床に雨染みができたり、私物が水浸しになったりすることもあります。
ガラス越しに直射日光が差し込んでくるため、フローリングやカーペットが変色することも多くなるので対策が必要です。
軒下がない家「キューブ型住宅」「軒ゼロ住宅」のトラブル対策
このように軒下がない家は、多くのメリットがある半面、雨漏りのリスクや住宅の耐久性にデメリットがあることがわかります。
高温多湿の日本では、外壁塗装や付属設備に紫外線が直接降りかかることで、長期的にみて維持費などのランニングコストがかかってしまいます。
それでは、これらを解消するための、具体的な対策についてみてみましょう。
窓に庇(ひさし)をつける
庇とは、窓や玄関の上に取り付ける小さな屋根のことで、部分的な軒の役割を果たしてくれます。
費用は追加で発生しますが、室内環境をよくするのに、長期的にみて有効と言えます。
外壁に防水塗料・撥水性建材を使用する
外壁塗料には、艶消しや艶ありがありますが、「艶あり塗料」の方が水を弾き、防水効果が高くなると言われています。
磁器タイルなどの建材は、紫外線に強く撥水性があり、経年劣化しにくい建材です。
防水対策には、撥水性の高い建材を使用したり、また、壁内側の防水シートのグレードを高くしたりするのも雨漏り防止に役立ちます。
豪雨の後の点検を怠らない
雨水を地上にうまく流すための、屋根に取り付けた、雨樋や谷樋、雨仕舞いに破損がないか定期的に点検することが大切です。
特に、豪雨で一度に大量の雨水が降り注ぐと、屋根の雨樋の排水許容量を超え、オーバーフローした雨水が外壁を伝って流れ落ちます。
日頃雨に当たらない部分まで、風雨にさらされることになるため、豪雨の後は、雨樋や谷樋、雨仕舞いや外壁に破損がないか、チェックすることが重要です。
外壁塗装のタイミングを逃さない
軒下のない家は、紫外線に常にさらされているため、外壁塗装の塗り替えの時期が早くなります。
塗装塗膜が劣化すると細かいヒビ割れができ、放置しておくと水が侵入して大きなクラックとなり、建物の基部の腐食につながります。
チョーキング現象と言って、壁を触って指に粉がついてきたら、塗膜が失われている証拠で、外壁塗装のタイミングと言われています。
雨漏り・修理に備えて保険の加入も
雨漏りは、原因調査から始まり、修理に多額の費用がかかり、放置しておくと大規模修繕が必要となってしまいます。
一般に、住宅に関する保険では、経年劣化や施工不良による雨漏りは補償対象となりませんが、保険でカバーできる場合があります。
加入している火災保険の契約内容によりますが、台風や水害の被害による雨漏りは対象となるため、保険会社に問い合わせて見ましょう。
まとめ
軒下がない家は、「BOX(箱型)住宅」「キューブ住宅」「軒ゼロ住宅」と呼ばれ、建売住宅に多く、近年人気の住宅モデルです。
「軒ゼロ住宅」は、屋根の突き出した軒の長さが25cm未満の住宅を言い、モダンでスタイリッシュな外観になります。軒がない分施工費が安くなり、敷地いっぱいに建てられるため、都心部の狭小地では、居室面積をより広く確保できます。
しかし、紫外線の影響を受けやすく、外壁塗装・シーリング・外付け設備の劣化が早く、長期的にみてランニングコストが多くかかります。
窓にひさしを追加すると、室内に差し込む強い日差しを遮り、室内の空調緩和に有効です。
スタイリッシュな「箱型住宅」ですが、雨漏りのリスクが高くなるため、外壁塗装を定期的に行い、住宅の維持管理に気をつけましょう。